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2011年12月07日

川本 裕子 早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授 経歴はこちら>>

TPP 基本を押さえて議論を(3/3)


 他方、供給側、すなわち企業など事業者にとっての自由化はプラスかマイナスか。まず、日本の輸出産業にとって環太平洋地域の市場開放は新たな飛躍のチャンスである。経済界は長らく海外市場での韓国メーカーとの競争上の不利を訴えてきたが、その解消も期待できる。
 いわゆる輸入競争産業にとっては自由化がプラスかマイナスかは、事業者の対応次第だと言ってよい。誤った保護政策によって戦後衰退の一途を辿ってきた農業などにとっては、競争力強化政策への転換により、新たな成長の機会が訪れる。規模の拡大や新技術の導入により生産性向上を図れば、これまで等閑に付してきた海外市場も開拓のチャンスが拡がる。
 問題はこうした新たな競争のチャレンジを正面から受け止め、自らを革新する勇気を事業者が持つかどうかにかかっている。そうした勇気を持たず、既存の枠組みを固守することにエネルギーを注ぐのでは、社会の停滞をもたらすだけだ。国内試合ばかりしていては国際大会で勝つ実力を得られないのは世間の常識だ。日頃から対外試合を重ねて切磋琢磨すべきなのは産業でも同じだ。
 TPPのメリット、デメリットと同列に並べる議論が多いが、上記のように大きな枠組みで捉えれば、自由化は基本的に日本に大きな経済利益をもたらすことは明らかだ。デメリットといっても、競争が激しくなる分野で事業者が負担する調整コストということになるが、それも低生産性の産業分野をずっと維持し続けるコストと比べれば小さい。

 「自らを変える勇気をもちさえすれば、国を開くことは自らのためになる」、その基本を押さえて議論する必要がある。

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加来 耕三
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池内 正人
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