2011年12月07日
川本 裕子 | 早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授 | 経歴はこちら>> |
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関税引き下げなど自由貿易推進のお陰で、第二次大戦の惨禍から世界はいち早く立ち直り、人類史上空前の生活水準の向上を享受している。世界的な自由貿易ルールの推進役はジュネーブのWTO(世界貿易機関)であり、関税のほか、電気通信などのサービス貿易、知的財産権、税関手続きなどの非関税障壁など様々な分野で国際ルール作りが進められてきた。2001年には中国も加盟した。
近年では、FTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)と呼ばれる、2カ国間ないし数カ国間で自由化を合意する事例が増え、TPPもその流れの中にある。こうした動きは無秩序な状態を招き、WTO体制を傷つけるという心配や批判もあるが、合意形成のスピードが速い利点もある。日本もアジア諸国とFTA・EPAを結んできたが、その成果は必ずしも捗々しくなく、韓国と比べ農業部門の開放が遅れていることに起因するとの指摘が有力だ。
消費者や需要家が、自由に財・サービスを購入できれば、最大の利便と幸福を得ることができる、というのは経済学の基本だ。人為的に取引を制限したり、政府が価格を規制したりすると、ほとんど必ず消費者は損失を被ることになる。従って、消費者と言う立場に立てば、自由化は常にプラスである。財サービスの需要家としての企業もこの意味での消費者としての自由化利益を享受する。「自由化されれば海外企業に日本市場が席捲される」といった類の反対論もあるが、需要家は価格や品質が良いものであるからこそ購入するのであり、強制されるものではない。
つまり、消費者にとっては価格と品質の選択肢が、企業にとっては新たな消費や投資の機会が広がる。自由化すれば食の安全が脅かされるという乱暴な議論もあるが、食品の安全基準は国内外を問わず厳格に適用することは大前提であり、よくある議論のすり替えである。貿易の自由化によって輸入食材の恩恵を受けている日本の消費者は既に多い。日本では世界の多くで使用されている進んだ医薬品や医療機器の導入は遅れている。制度改革により最先端医療技術へのアクセスが改善されれば、医療ニーズの高い人にとっても福音だ。
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