新聞案内人詳細

2011年09月26日

川本 裕子 早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授 経歴はこちら>>

なでしこから学ぶ経済再生の第一歩(3/3)


  プロとして尊敬し合う

 なでしこの活躍から、日本の女性の活躍に期待する向きも多くなっている。学業は立派におさめても「女性は家」という概念は女性にも未だに根強い。働くと言っても結婚までの「職場の花」扱いにとどまり、結婚や出産で職場を去る女性は多い。労働市場に残る少数派も、夫の理解と協力不足、保育所などのインフラの未整備や育児と両立しにくい長時間労働の慣習など、女性が働く日本の環境は極めて厳しいのが現状だ。専業主婦に有利な税制や年金の仕組みなどの女性のキャリア持続にネガティブな効果を持つ制度も、いつまで経っても改革されない。高齢化社会の負担増が懸念され、一人でも多くの働き手が必要な今、教育投資をつぎ込んだ女性が家庭にいては、日本経済に巨大な損失を与えることになる。
 各メディアは、根本的な反省が官民挙げて必要だという鮮明な認識をもっと持ってほしい。女性の管理職への登用が諸外国に比べて少ないし、役員への登用はわずか1%で、特に内部からの昇進が少ない。米・EU平均の十分の一にも満たないし、すでに、日本より女性活用が遅れているのは、宗教的理由から女性の外での活動が制限される中東イスラム国の数か国である。
 この現状を恥ずかしいと思うのなら、今までの取り組みを深く反省して、あらゆる手をうつべきなのだが、政府も企業もその意識は希薄だ。政府の男女参画会議など、女性をもっと活躍させる環境づくりを推進する枠組みはできているが、最近の政権に「本気度」は感じられない。状況が全く改善していないのだ。
 日本の企業人と話していると、「登用が少ないのは、人材がいないため」という声が多い。人材がいないのは本気で育てようとしていないからだと指摘すると、「いろいろやってみたが育たない」、あげくは「育てなくても自然に育つべきだ」「そもそもなぜそこまでやらないといけないのか」という議論になる。
 報道でも、国際指標の発表などの際に「女性の活用が遅れている」という記事が単発的に掲載される程度で、社会の構造的問題との意識は薄い。「女性の問題」「女性論説委員の領域」とされ、関心の片隅に追いやられる構図になっていないか。
 なでしこの活躍が、少しでも女性が社会で働きやすい環境ができていく契機になれば、と筆者は思う。他の女子スポーツでも選手の活躍が注目されるたびに、「日本の女性はもっと活躍できる」という議論が一時的なフィーバーに終わらないことを望んでもいる。

 しかし、たとえば企業にいる男性が、佐々木監督のやり方で「部下の女子をマネージできる」などと思っては事を誤ることになる。なでしこの選手と監督は、お互いにプロであることを強く意識し、プロ同志の距離感の取り方をしているように見受けられる。女性も男性も仕事をするプロとして尊敬しあう姿勢が日本の企業社会では決定的に弱い。「なでしこから学ぶ第一歩」はそこにあると思う。

新聞案内人コラムへ投稿する

前回の新聞案内人

松山 幸弘
松山 幸弘 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 経歴はこちら>>

日本にもメガ非営利医療事業体を

 厚生労働省が2010年度の概算医療費の前年度比増加率がプラス3.9%であったと発表した。概算医療費とは、全額自己負担の医療費などを除いた金額で医療費全体(国民医療費)の約98%を占める。国民医療費よ・・・>>続き

2回前の新聞案内人

加来 耕三
加来 耕三
歴史家・作家

第三の道で生きる 細川藤孝

 細川護熙元首相のインタビュー記事が、9月18・19日の朝日新聞に出ていた。  その中で、野田佳彦・現首相の「指南役」として、  「増税か反増税かと短絡的に決めつけられて、難しい。よほどうまく・・・>>続き

3回前の新聞案内人

内海 善雄
内海 善雄
国際電気通信連合(ITU)前事務総局長

野田政権 ノッキングは想定内

 野田内閣は、経験の浅い閣僚達の軽率な発言や経産大臣の辞任で、スタートよりノッキングを起こしている。海外メディアもあきれているとのこと。しかし、この程度のことは、もともと想定内のことではないだろう・・・>>続き

ご購読のお申し込み

3紙おすすめイベント

特集・座談会シリーズ

シリーズ座談会「日本のビジョン」
 シリーズ座談会「日本のビジョン」、第4回は「震災復興の今と課題」。朝日、日経、読売3紙の現地編集トップが被災地の生の姿を語り合いました。
出来事ファイル 2008-2012年
あらたにす開設以来の月別主要ニュースを号外と写真を中心に振り返ります。
少年の主張全国大会(わたしの主張2011)
全国の中学生による2011年「少年の主張」全国大会の模様をお伝えします。
シリーズ座談会「日本のビジョン
三紙の論説、編集委員が徹底討論。第3回は混乱する日本政治の再生を考えます。
JGA 3大オープンゴルフ特集
9月29日スタート!ゴルフ3大イベント「日本女子オープン」「日本オープン」「日本シニアオープン」を特集します。
シリーズ座談会「日本のビジョン」
朝日・日経・読売の編集委員が徹底討論。第二回は財政や税、復興資金などを多角的に考える「どうする復興財源」です。
シリーズ座談会「日本のビジョン」
朝日、日経、読売の論説・編集委員が徹底議論。第1回は原発事故を経た日本のエネルギー政策。
「2011年の世界」3紙座談会
国際問題担当エディター・編集委員が2011年の世界の注目点を議論しました。
【特別リポート】欧州財政再建と市民-英国の現場から
福祉切り下げや増税など、痛みを伴う改革への市民の反応を報告します。
3社論説トップ鼎談2010
鳩山政権が初めて迎えた新しい年。直面する「政治とカネ」「日米関係」「デフレ」などの問題に議論を交わしました。
麻生内閣総理大臣と鳩山民主党代表による党首討論(2009年8月12日)


3社論説トップ鼎談2009
あらたにす開設1周年 今年も論説委員会トップ3人が激論。
3紙「年金提言」座談会
老後を支える年金制度の改革案を議論しました。
2008年 3社論説トップ鼎談
社説を書く論説委員会トップ3人が年頭に激論。

あらたにす便り