2011年04月01日
川本 裕子 | 早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授 | 経歴はこちら>> |
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サッカー日本代表のチャリティーマッチの開催は被災地の子供達を励まし、子供の笑顔が大人を元気づけたことだろう。しかし、開催に対する批判を意識してか、選手が「開催が適切かに意見はあると思うが、自分たちは被災地を励ましたい」と繰り返し述べていたのは可哀想だった。被災地の人を励ましたいという真摯な思いで開催する催しで、どうして選手が言い訳じみたことを言わなければならないのか。
東京電力管内では計画停電が実施され、節電が求められている中、スーパーなど店内の照明が暗くなったりするのに異論はない。しかし、元気な若者も健康な中高年もみんなそろって会合をキャンセルし、家にこもり、政治家が「連帯感を強めるために花見を自粛すべきだ」と述べるのは明らかに行き過ぎな感じがする。
○ムードの蔓延
個人の思いで自主的に宴会を取りやめる人がいるのは自然だが、上からそういう指令が来て一律に止めるのもなんだか変だ。「今年の花見では支援のための募金をするのでよろしく」という方向に持っていくべきだろう。震災後の忍耐強い対応で世界の人を驚かしている国民が、悲劇をすぐに忘れて浮かれ騒ぎ、同胞の気持ちを傷つけるとは思えない。そう思うのであれば国民を軽蔑しているのではないか。
日本では「空気(ムード)がすべてを制御し統制し、強力な規範となって、各人の口を封じてしまう」「データないし根拠は全くなく、その正当性の根拠は専ら「空気」なのである。」 「あらゆる議論は最後には空気できめられる。最終的決定を下し、「そうせざるえなくしている」力をもっているのは一に「空気」であって、それ以外にない。」 と山本七平は「空気の研究」で書いている。今の自粛ムードはまさにそうした「空気」であり、それが蔓延してあまりいいことがないのは歴史が証人だ。「空気」の伝染におけるマスコミの役割についても大いに自戒が求められる。
○持続的な支援
被災地への思いやりも心遣いは何よりも大切だが、持続的な支援という観点からは、「自粛」のムードではなく、日本全体で経済活動さかんにして被災地を支えるのが現実には一番大事である。何よりも被災地外の人が自立して働き、企業が繁栄して復興資金を稼ぎだすことこそが被災地復興の近道なのである。WARM HEART, COOL HEADを持ちたい。
→次の新聞案内人は、コラムニストの栗田亘さんです。4日(月)朝の掲載です。
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