2011年04月01日
川本 裕子 | 早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授 | 経歴はこちら>> |
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3月11日本州東部を襲った大地震と大津波は、日本列島が如何に大きな自然災害リスクにさらされているかを改めて我々に思い起こさせた。大きな揺れ、そして家や車や街そのものが津波にのまれていく悲劇を我々は生涯忘れられない。本当に心の痛む災害である。その上、福島原発に障害が発生し、周辺住民への退避勧告や「炉心融解」など、日本の原子力史上未曽有の事態が続いている。現場の技術者や職員、関係会社の社員の方たちの危険を賭した復旧作業が進む一方で、首都圏の「計画停電」などでは消費者視線の不足も垣間見える。
今なお避難所で苦しい生活を続けている方々も多く、また生活基盤を一挙になくされた方もいらっしゃる。個々の被災者の早期の生活安定のための効果的な支援体制が是非とも必要で、国と地方自治体が連携してビジョンとプランを示し、見通しを明るくしていくことが何よりも大切だ。
○再活性化のきっかけ
この大災害で一気に不確実性が高まった日本経済だが、ここで過剰な悲観主義に陥ることを避けるべきなのは衆目の一致するところだろう。東の機能低下を生産流通体制が無傷の西の強化で補う観点から、すでに多くの企業がこれまでの流通網や生産拠点の組み直しをして、東の機能補填に努めている。西での物資の増産と東への輸送のために資源を総動員することにより、経済活動再活性化のきっかけが生まれる。国や地方自治体はこうした民間の動き、意欲を引き出すコーディネータの役割を強化していくべきであろうし、すでに多くの国民が「自分のできることは何か」を考えて小さなことからでも実行に移している。
それにつけても今非常に気になるのが一律の「自粛」ムードである。東北の方々の困難を思うとき、東北以外の地域の人々が贅沢をしていてはいけない、日常生活も控えめに、という気持ちはわかる。しかし、東北にとって今一番必要なのは生活を支える家や道路や橋や学校の再建であり、仕事を取り戻す環境である。そうした復興を支える資金は企業や個人の収入からの義捐金と、国に治める税金から出てくる。東北以外の地域で経済が活性化し、所得と雇用が伸び、支出が拡大し、税収も増えることで東北地方にも仕事が生まれ、また東北地方に回る支援のモノやカネが拡大する。そういった関係にあるところ、東北以外の地域が自粛で縮小均衡に陥ることは東北の復興をスローダウンすることに他ならない。
→次ページに続く(自粛の行き過ぎ懸念)
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