2011年02月09日
川本 裕子 | 早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授 | 経歴はこちら>> |
---|
たとえば金融機関のシステム不具合についての報道ぶりがある。ある銀行のシステムが故障し、1つのコンビニチェーンのATMで現金がおろせない、という事態が発生した。これをメディアはこぞって「あるまじきこと」とばかりに熱心に報道した。記事だけを見ると本当に困ったことだと思わせるが、聞いてみると、その不都合は約2時間で解決されたらしい。また、そのほかのコンビニチェーンとの接続では不具合がなかったので、現金のおりないコンビニを出て、すぐ近くの他のコンビニに行けば何も問題なく現金を手にできたという。もちろん、全国を見れば、他のコンビニチェーンがあまり近くにない、というところもあるかもしれない。ただ、コンビニはどこも熾烈な出店競争をしていて、ただ一つしかコンビニのない地域がそれほど多いとも思われない。
○バランスの問題
要するにどのくらい不便をかけたかのバランスの問題である。上記のようにあまり大きな不便をもたらしたとは思えないシステム不具合が「大問題」と報道されることで、金融機関などはとにかくチェックを繰り返し、普通想定されるよりもはるかに多い人手とエネルギーをかけて、不具合を回避しようとする。メディアが問題化することにより、限りなくゼロに近い間違いをさらにゼロに近づける努力を金融機関が行う。そのコストがどのくらいかかっているのかと心配になる。結局利用者が負担することになるからだ。
交通機関の遅延についての報道も同様に気になる。電車は遅れないのが当たり前という日本の風土も背景にあるし、特に新幹線はその運行の正確さが日本人の誇りにまでなっているなかで、遅延は心情的にショックでもあろう。しかし、その報道ぶりを見ると、どうしてそこまで大騒ぎするのか、他に伝えることはないだろうかと感じるときもしばしばだ。先日、交通機関遅延で「親の死に目に会えなかった」人のことを伝える記事があったが、問題の捉え方として違和感を禁じ得なかった。
→次ページに続く(逆に過少のことも)
タイガーマスク現象が、日本各地に広がっている。筆者はこの善意と共感の広がりの中で、たった一つ、「覆面」(マスク)=匿名で行われる事象が、気になってしかたがない。・・・>>続き
社会保障・医療問題の専門家。保険会社勤務や民間医療法人の理事、海外研究所での研究員、厚生省研究班のメンバーなどの経験があります。国の制度・政策と現場の実情、海外事情に通じた立場から社会保障や医療を論・・・>>続き