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2011年07月12日

川本 裕子 早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授 経歴はこちら>>

シャトル計画終了と日本の「戦略」(3/3)

 第二は、「戦略」の本質の理解である。「宇宙開発戦略の確立を」の声は今回の報道でも多く聞かれ、もちろんそれ自体正しいが、問題はその場合の「戦略」とは何かということだ。政府でも民間でも、古今東西を問わず、現実世界では、ある目的のために投入できる資源は常に有限である。意味のある戦略とは、有限な資源投入の優先順位の明確化を前提とする。何かを選べば、何かを減らすか捨てることになる――これが優先順位づけの大前提だ。この優先順位付けをどのような考え方に基づいて、どのような手順で実行するかが優れた戦略か否かの分かれ目だ。

  優先順位の見極め

 日本では、優先順位を明確化しない「戦略」も往々にして見られる。それは思考停止か、暗黙のうちに今の資源配分を変えないという「拙い戦略」を想定している場合が多い。しかし、未曾有の財政困難に苦しむ日本で優先順位付けを避けた政策はあらゆる分野で本来ありえない。宇宙戦略も同様で、優先順位づけを避けることに甘んじる余裕はないのも事実だろう。例えば宇宙という一言で実にいろいろなことが語られるが、静止衛星軌道以内の近い宇宙の利用か、それより「遠い宇宙」の話かで、人類への意味合いは全く異なる。

 優先順位の明確化は、議論への参加者全員を等しく満足させることはほとんどない。意見の対立が生じるのは半ば自然である。しかし、議論の中から宇宙開発利用の全体的な目的や日本の国益に最も奉仕すると考えられるプランを醸成するためには、何よりも費用対効果の継続的な検証が必要だ。今回のシャトル計画の終了も、そうした徹底的な費用対効果検証の結果である、ということがもっと認識されていいのではないか。

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松山 幸弘
松山 幸弘 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 経歴はこちら>>

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加来 耕三
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池内 正人
池内 正人
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