新聞案内人詳細

2011年03月08日

川本 裕子 早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授 経歴はこちら>>

数字の「魔性」に注意を(2/2)



 世論調査については、設問の仕方で回答結果が影響を受け、本当に中立な数字なのかと疑問を感じる時がある。先日見た例だと、「TPPについてどう考えるか」の選択肢が、①早期に参加すべき ②参加に反対 ③議論を尽くすべき、となっていた。このような回答の選択肢では、③を選ぶ人が多くなるだろう。一般論として議論を尽くすのに反対する人は少ないからだ。結果は予想通り「議論をつくすべき」という人が多数になったが、「議論をつくすべきとの意見が多数」と報道されると、慎重派が多いように見える。個人的には、「議論はつくして期限内に決着すべき」という考え方の人も多いような気がするが、そうした実態はこの数字からはわからない。選択肢としては、単純に①TPPに賛成、②反対、③わからない、などとするのがより中立な設問と思えるがどうだろう。

○設問で変わる結果

 以上のようなことを考えていたら、データに基づき仮説を検証する科学的手法で政治的現象を分析することの重要性を主張する本を見つけた(菅原琢「世論の曲解」)。そこではまさに、内閣支持率の世論調査が設問の仕方や調査方法によって結果が大きく変わることが指摘されていた。たとえば累次の世論調査の動向などを分析していけば、麻生元首相が「国民的人気」があるとされた根拠は非常に薄弱だった模様だ。過去の世論調査結果を見る限り、読者としては設問の仕方も含めて慎重に読むべきだろう。

 なお、「05年郵政総選挙は、争点を単純化した『劇場型政治』で浮動票を動員した小泉政権が大勝した一回性のもの」「小泉構造改革への反動で地方が反乱を起こして07年の参院選で安部政権が敗北した」という現在の日本の政治メディアの通説的解釈も、投票行動の様々なデータに基づく分析からは裏付けがないもののようだ。むしろデータ的には既得権に対する改革を求める20-50代の都市住民の投票行動が選挙の勝敗を大きく左右するという傾向が浮かび上がってくる。政治の報道もどこまでが客観的データに裏付けられているのか、読者は見極めることが重要なのだろう。


 →明日(9日)の新聞案内人は、コラムニストの栗田亘さんです。

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